椿説弓張月 第一篇 筑紫の若武者
第一篇・今を去る七百年の昔--遠く流球から、日本征*をたくらむ妖怪の化身が朦雲法師と名乗って渡来し言葉巧みに朝廷に取り入った末、世にいう保元の乱を起させた。戦に敗れた源氏の御曹司鎮西八郎為朝は、八丁礫の紀平治と共に平忠国を頼って落ちのびる途中、図らずも忠国の養女白縫姫の危難を救った。白縫姫こそは故国の内乱を避けて日本に隠れ住む流球の王女であり、比良の麓で二人の心は固く結ばれた。婚礼の夜、為朝は蜘蛛に化けた朦雲の子分を仕止めたが、その毒に当って体の自由を失ったところを平家の兵に捕えられ、大島に流罪の身となった。野望を見破られた朦雲は、為朝を亡きものにしようと大島に追うが、為朝はこれを撃退した。その後、白縫姫に***逢った為朝は、平清盛を亡ぼそうと船出するが、朦雲の妖術に船は難破し、白縫姫は自ら生贄となって海中へ……。