花の三度笠
名優嵐粂三郎の御曹子としてしつけられ、今は売出しの若手嵐粂吉は、父にも秘めた恋人--深川芸者の満津次がある。急にもち上った某藩留守居役日下部伊織の身請話で、家をぬけだした彼女が粂吉と相談中、その船宿へ不意にのりこんできた日下部一味との争いとなり、二階から水中におちた日下部がてっきり死んだものと粂吉は早呑込み。満津次ともども駆落ちした。二人は忽ちつかまったが、粂吉は岸壁から海へ転落したまま消息を絶つ。以来三年。--東海道の宿場宿場を、女を尋ねまわる旅渡世の男、その名も疾風の粂と変わる粂吉の姿である。その彼を嵐粂吉そっくりね、と岡惚れして追っかけまわすのは江戸生れのお政、迷惑がって彼が足をはやめる折しも、土地の顔役黒馬の庄五郎が生娘お光にからむのを目にして、さんざん打ちすえる。お光の叔母お倉に彼女を府中の親許鱗屋まで届けてくれと頼まれて、事の行がかり上こ...