サラリーマン喧嘩三代記
立石鋭太郎の祖父は、時の大審院判事長を政党に媚び軍人を恐れるコンニャク野郎と罵倒して判事をやめた硬骨漢、父は地方の土木課長をしていた時、土木局長をワイロ肥りといって擲りつけて二十年間の職を棒に振った。以来正義感のため十二回も職を変わった快男子である。鋭太郎は学窓を出て東都電機の入社試験当日社長に喰ってかかったりしたが、かえってそこを見込まれ無事入社した。火事のあった夜、偶然隣家へ越していた社長一家と親しくなり、立石老人は社長と良い碁敵になった。先覚の祖父や父から辛抱が大切とはげまされて鋭太郎は毎日社へ通っていたが、立身出世に汲々としているキザな重松という社員は、鋭太郎が社長一家と親しいのを嫉妬して事ごとにデマをとばした。新しい人事移動が発表されたとき、重松を出し抜いて鋭太郎が社長秘書に抜てきされたことから、再び彼が社長令嬢をたぶらかしてその地位を手に...