霧子の運命
松本霧子は今年二十七歳、伊豆山麓の田舎に生れたが、その少女時代はちょうど戦争中で、父の善作は出征軍人だった。留守宅には、何時もガミガミとうるさい継母と病気がちの祖父、それにまだ幼い三人の義妹が**していてそんな複雑な家庭の空気が、彼女の性格をひねくれたものにしていた。小学校でも、担任の先生や級友たちが何か事ある毎に彼女を白眼視して、霧子は一層依*地に振舞う少女になっていた。終戦になり父は復員して来たが、下田へ大工仕事で出かけたきり。霧子は中学を卒業すると、伊東、熱海など温泉旅館を女中として転々と働き歩いた。伊東で働いている時、彼女の器量を見こんだ年増芸者のお花から、芸者になることを進められたりしたが、常客の影山幸二郎を頼って東京のバーへ出て働くことになった。霧子は一年程前から、店に通ってくる宇佐見という年下の男に心を惹かれていた。その宇佐見が金欲しさ...